東京地方裁判所 昭和31年(ワ)6539号 判決 1958年9月10日
常盤相互銀行
事実
原告株式会社常盤相互銀行は、昭和二十六年三月二日被告関ムメの代理人である被告の夫関新治との間に、金五十万円を、弁済期は昭和二十八年十一月二十六日、利息は元金百円につき一日金三銭、期限後の遅延損害金は百円につき一日金四銭の約束で消費貸借契約を結び、即日被告に対し右金員を貸渡した。ところが被告は、右弁済期を過ぎても右借用金を返さないので、原告は被告に対し、右元金五十万円及びこれに対する完済までの遅延損害金の支払を求めると主張した。
被告は原告の主張事実をすべて否認した。
理由
原告が、昭和二十六年三月二日、被告の代理人である関新治との間に、原告主張の消費貸借契約を結んだとの原告の主張事実については、次に述べるように、結局これを認めることができない。
すなわち、証拠によると、昭和二十六年三月頃、当時原告銀行の外務員をしていた被告の夫関新治が、千賀康雄に対する返済金に迫られて、原告銀行渋谷支店長をしていた杉浦喜三郎に頼み、急場の金として、同人から個人の金五十万円を借用したこと、杉浦としては右金五十万円の返済を確保する方法として、まず関に対する五十万円の債権を原告に譲渡し、原告から同額の対価を得たうえ、その債権につき原告と関との間に直接消費貸借がなされたように形をととのえておくことにしたこと、但し関は原告銀行の従業員であり、原告から金を借りることが規則上許されていないので、杉浦は、原告銀行渋谷支店長の立場として、やむなく表向きには関の妻である被告の名前を使つて書類を作成することにしたこと、原告の関に対する利息の取立は、関が原告銀行の外務員として働いたことにより、原告から支払われるべき歩合金をこれに充てて、帳簿上利息が入金になつたように処理したこと、右歩合金を利息の支払に充てることは、関も承知していたこと、以上のことがらについては、被告は何も知らなかつたこと、が認められる。
してみると、原告が被告の代理人である関新治と直接原告主張の消費貸借契約を結んで金五十万円を貸し渡たしことを前提とする原告の本訴請求は、理由のないことが明らかであるとしてこれを棄却した。